私たちが「生成AIの使い方」やAI技術の社会実装について考えるとき、多くの人は画面上で動作するチャットボットや画像生成ツールを思い浮かべるかもしれません。しかし、AI技術が私たちの生活や仕事、そして社会インフラそのものを根底から変えようとしている最前線に、「自動運転技術」があります。その中でも、日本発の企業としてオープンソースの自動運転ソフトウェア「Autoware(オートウェア)」の開発を主導し、世界中の企業や研究機関とエコシステムを形成しているのが「ティアフォー(Tier IV)」です。ティアフォーは、単なるAIアルゴリズムの開発にとどまらず、ソフトウェア、ハードウェア、クラウドシステムを統合し、自動運転レベル4(高度運転自動化)の社会実装に向けて具体的な道筋を描いています。
AIの使い方に関する情報は多く、「結局、それが自分の仕事や生活にどのように影響を及ぼすのか分からない」と戸惑う方も少なくありません。特に自動運転のような巨大なシステムにおいては、AI技術がどのように組み込まれ、どのような基準で安全性が評価され、実社会のビジネスとしてどのように運用されるのかを理解することが重要です。ティアフォーが提供する技術は、車両メーカーだけでなく、物流、公共交通、スマートシティ開発、さらにはフリート管理や遠隔操作に関わる多くのビジネスパーソンにとって、新たな事業機会や業務プロセスの変革をもたらす可能性を秘めています。一方で、AIベースの最新技術が「発表された」ことと、それが「今すぐ公道で無条件に商用利用できる」ことは全く別次元の話であり、運行設計領域(ODD)や法規制、安全評価といった厳しい関門が存在します。
本記事では、AI技術を流行やニュースの羅列としてではなく、業務成果や事業判断に変換するための体系的な知識として整理します。ティアフォーがどのような理念と製品群を持ち、東証グロース市場への上場を経てどのような事業モデルを展開しているのかという「事業の概要」から解説します。そして、Autowareを基盤とした「Pilot.Auto」「Web.Auto」「Edge.Auto」といった具体的な製品群の選び方、AIベースのレベル4技術の評価方法、実証実験と商用運行の違い、導入時に見落としがちな車両・運用費用の構造まで、導入前の確認点を整理します。あなたが自社の新規事業やインフラ投資において、自動運転技術やAI基盤をどのように評価し、どのように関わっていくべきかの判断材料として、ぜひ最後までご活用ください。
- ティアフォーは、オープンソースの自動運転ソフトウェア「Autoware」を主導し、ハード・ソフト・クラウドを統合してレベル4社会実装を目指す上場企業である
- 「Pilot.Auto」「Web.Auto」「Edge.Auto」の製品群は、開発・運用・ハードウェアの用途別に分かれ、企業が自社の目的に合わせて選択・統合できる
- 羽田空港関連の発表では段階的な検証計画が示されており、計画・実証・商用運行の実績を分けて確認する
- 自動運転AIの導入には、OSSの無償部分だけでなく、車両統合、安全評価、遠隔監視、法規制対応といった多岐にわたる運用費用と専門知識が不可欠である
企業とプロダクトを理解する章:ティアフォーの全体像

生成AIの使い方やAIビジネスへの参入を検討する上で、ティアフォーという企業がどのような立ち位置にあるのかを正しく把握することは非常に重要です。この章では、ティアフォーの基本情報から、主力となるプロダクトポートフォリオ、ビジネスモデル、そして東証グロース市場上場を果たした企業の事業規模や強み・弱みに至るまで、企業の全体像を整理します。自動運転という極めて難易度の高い領域において、彼らがどのようにエコシステムを構築しているのかを確認していきましょう。
会社概要
株式会社ティアフォー(Tier IV, Inc.)は、オープンソースの自動運転ソフトウェア「Autoware」の開発を主導し、自動運転システムの社会実装を進めるディープテック企業です。上場発表で本社を東京都品川区と案内しており、世界各地の開発者や企業と連携しながら、自動運転技術の標準化と民主化を目指しています。
同社が取り組む主要領域は、単なるAIモデルの構築だけではありません。車両を制御するためのソフトウェア群、それらを統合するエッジコンピューティングハードウェア、そして遠隔監視やフリート管理を行うクラウドシステムまで、自動運転を成立させるためのフルスタックな技術基盤を提供しています。ティアフォーは、「自動運転技術をすべての人へ」という理念のもと、誰もが自動運転の開発に参加でき、特定の企業による技術の囲い込みを防ぐエコシステムを志向しています。これは、AI技術の発展においてオープンソースが果たしてきた役割を、モビリティ産業において実現しようとする試みと言えます。
沿革と転機
ティアフォーは、Autowareの開発を主導してきました。Autowareは、名古屋大学での研究成果を基盤とするオープンソースの自動運転ソフトウェアです。企業の設立時点とソフトウェアの公開・開発の経緯は区別して確認してください。
その後、技術の標準化と普及を推進するため、The Autoware Foundation(AWF)の設立を主導しました。これにより、Autowareはティアフォー単独のプロジェクトから、グローバルなコンソーシアムによって支えられる国際的なオープンソースプロジェクトへと成長しました。さらに近年では、研究開発フェーズから社会実装フェーズへの移行を本格化させ、2026年7月22日には東京証券取引所グロース市場への新規上場を果たしました。未上場のスタートアップからパブリックカンパニーへと変貌を遂げたことで、IR情報の公表も開始しています。上場の事実だけで技術力・財務安定性・商用サービスの提供範囲を判断することは避けてください。
主要プロダクト
ティアフォーのプロダクト群は、オープンソースであるAutowareを中核としながらも、企業の商用利用や高度な開発要求に応えるために体系化されています。公式製品ページで紹介されている主要なプロダクトは、用途に応じて大きく3つに分類されます。
1つ目は、自動運転ソフトウェアプラットフォーム「Pilot.Auto」です。これはAutowareを基盤とするソフトウェアプラットフォームであり、車両への組み込みや特定のユースケースに向けたカスタマイズを前提としています。2つ目は、クラウドネイティブなDevOpsプラットフォーム「Web.Auto」です。開発現場でのシミュレーション、データ管理、フリート管理、そして遠隔監視・操作のためのツール群を提供し、自動運転車両の安全な運行と継続的なシステム改善を支援します。3つ目は、ハードウェアリファレンスデザイン「Edge.Auto」です。AIの推論を車両側でリアルタイムに処理するためのセンサーやコンピューティングユニットなどをパッケージ化し、ソフトウェアとハードウェアの統合を容易にします。また、閉鎖空間での開発検証キットとして「DTVキット(DTVはDrivable Test Vehicleの略)」なども提供しており、目的に合わせた柔軟な技術選択が可能です。
収益モデル
ティアフォーの事業モデルは、オープンソースソフトウェア(OSS)と商用ビジネスを組み合わせたハイブリッド型です。Autoware自体は無償で公開されており、ライセンスに従って利用できるOSSですが、企業が自動運転技術を自社のビジネスに組み込んで実際のサービスを立ち上げようとすると、それだけでは完結しません。
ティアフォーは、この「社会実装の壁」を乗り越えるための商用製品やソリューションを販売することで収益を得ています。前述の製品群や開発環境を提供していますが、ライセンスの範囲、利用料金、課金単位は製品・契約条件ごとの確認が必要です。また、企業が自社の車両やインフラに自動運転システムを統合する際の実装支援、カスタマイズ開発、安全評価のコンサルティングなど、支援内容も確認対象となります。公開されたサービスの案内だけでは、これらの売上構成上の比率までは判断できません。つまり、「基本技術はオープンにして市場を拡大し、商用化に必要な安全性・信頼性・運用ツールをパッケージ化してマネタイズする」という、ソフトウェア業界において実績のあるモデルを自動運転領域で展開しているのです。
利用規模・成長指標
Autowareの利用規模と、ティアフォーの有償製品の顧客数は分けて確認する必要があります。The Autoware Foundationの2026年7月22日付ワークショップ案内では、Autowareは数百社、30を超える車種、20を超える国で利用されていると説明されています。これはAutowareの利用範囲であり、財団の会員数やティアフォーの有償顧客数と同じ指標ではありません。
具体的な社会実装の事例として、日本国内の複数自治体におけるコミュニティバスの自動運転化プロジェクトや、物流拠点における無人搬送車の開発、さらにはNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の支援を受けたスタートアッププロジェクトなどで、ティアフォーの技術が活用されています。導入や実証に関する個別事例は公式発表で確認し、各案件が実証・商用準備・商用稼働のどの段階にあるかを確認してください。利用規模を測る上では、単に「アプリのダウンロード数」のような指標ではなく、「実社会のモビリティシステムとして稼働している車両数や提携プロジェクト数」が重要な指標となります。
資本・事業規模
2026年7月22日の東証グロース市場への上場は、ティアフォーの資本政策と事業規模の拡大において極めて重要なマイルストーンとなりました。上場企業となったことで、かつての「未上場スタートアップ」という枠組みを外れ、パブリックカンパニーとしての厳しいガバナンスと透明性が求められると同時に、市場からの直接的な資金調達が可能になりました。
事業規模を評価する際は、上場後に公開される売上高や費用の対象期間と会計上の範囲を確認してください。(※時価総額や具体的な売上高は公開時点の市場状況や決算期によって変動するため、最新の有価証券報告書や適時開示情報を確認することが必須です。)資金調達額や具体的な資金使途についても、上場の告知だけから推測せず、該当する開示資料を確認する必要があります。過去のベンチャーキャピタルからの調達額と現在の企業価値(時価総額)を同一視せず、常に上場企業としての最新の財務指標に基づいて評価することが求められます。
強み弱み
ティアフォーの特徴の一つは、グローバルなオープンソースエコシステムを主導している点にあります。Autowareを中心とした開発者コミュニティが存在することで、各参加者が改良や検証に貢献し、知見を共有できます。進化の速さや品質は、利用する版と検証結果で評価する必要があります。また、ソフトウェアだけでなく、Web.Autoのようなクラウド側の運用基盤や、Edge.Autoといったハードウェアの統合基盤までを包括的に提供できるフルスタックな技術力も、企業導入を後押しする大きな強みです。
一方で、弱みや事業上のリスクも存在します。オープンソースへの参加規模と、有償製品の売上や利益率は別の指標です。収益性は最新の開示資料で確認する必要があります。また、自動運転レベル4の社会実装には、技術的な完成度だけでなく、各国の法規制、インフラ側の対応、社会的受容性といった外部要因が強く影響します。万が一、自動運転システムによる重大な事故が発生した場合、企業のブランドや技術に対する信頼が大きく損なわれるリスク(情報品質リスクや訴訟リスク)は、モビリティ産業特有の重大な課題として常に留意しなければなりません。
競合比較と直近リリース
比較対象を選ぶ際は、自動運転サービスの運営者、車両メーカー、開発基盤の提供者を分け、対象地域・用途・提供形態をそろえてください。GMは2024年12月にCruiseのロボタクシー開発への資金提供停止を発表しており、Cruiseを現役の独立したロボタクシー事業者として並べるのは適切ではありません。Autowareを基盤に開発する方式についても、公開部分と各製品の契約範囲を分けて比較する必要があります。
技術的な動きとして注目すべきは、2026年3月に公開された「データ中心のAIを活用するレベル4向けソフトウェアスタック」です。2025年のE2Eアーキテクチャを基礎に、データ中心のAIを活用するスタックが公開されました。ルールベースとAIベースの構成を含め、対象の車両とODDに応じた検証が必要です。ただし、ソフトウェアスタックの公開と試験走行は、個別の商用サービスがどの条件で運行できるかとは分けて確認する必要があります。最新のAIモデルをすぐに商用システムに丸投げするのではなく、対象の構成・走行環境で必要な検証と運行要件を満たすかを確認することが大切です。
仕事で使う判断をする章:自動運転AIのユースケースと評価軸

ティアフォーの技術基盤が充実していることは理解できても、それを実際の業務や新規事業にどう落とし込むか、またAIの使い方が自社にどう影響するのかを判断するのは容易ではありません。この章では、導入を検討する担当者がAIを業務で活用するという視点から、Autowareを始めとする製品群を具体的にどの場面で選び、どのように評価し、どのような準備とコストを見込むべきなのか、導入の目的、評価方法、運行条件と費用に分けて整理します。
Autowareを自動運転開発に使う場面
自動運転技術を自社の事業に取り入れたいと考えたとき、一からすべてのアルゴリズムを開発することは現実的ではありません。ここでオープンソースの「Autoware」を自動運転開発のスタート地点として使う場面が生まれます。
Autowareの活用を検討する場面の一つは、「特定のユースケースに特化した自動運転車両」を企画・開発する初期フェーズです。例えば、広大な工場敷地内での無人搬送車、特定のルートを巡回するテーマパークのシャトルバス、あるいは過疎地における低速のコミュニティバスなどです。Autowareには、自己位置推定、物体認識、経路計画、車両制御といった自動運転に必要な基本モジュールが既に揃っています。企業はこれらをベースに、自社の用途に必要なセンサー(LiDARやカメラ)を選定し、システムを構築し始めることができます。
ただし、注意すべき点は、Autowareをダウンロードしたからといって、すぐに車が自動で走り出すわけではないということです。ソフトウェアを車両のハードウェア(ステアリングやブレーキのバイワイヤ制御)と連携させ、安全に動作させるためには、組み込みエンジニアリングの高度な専門知識が要求されます。「車輪の再発明」を防ぐための強力な基盤ツールとして位置づけ、自社のエンジニアリングリソースと組み合わせて活用するのが、検討の進め方の一つです。
Pilot.Auto・Web.Auto・Edge.Autoの選び方
ティアフォーが提供する商用製品群は、開発から運用までの各フェーズで役割が明確に分かれています。自社がどの課題を解決したいかによって、これらをどう選び、組み合わせるかが変わります。
- Pilot.Auto(車両側の頭脳を作る) 自社で自動運転車両そのものを開発・量産したい場合や、オープンソース版のAutowareでは商用化に向けた信頼性保証や継続的なサポートに不安がある場合に選択します。車両への統合を検討する際に、利用条件やサポート範囲、安全評価の責任分担を確認するソフトウェア基盤です。
- Web.Auto(クラウドで支え、運用する) 車両の開発中から、実際のフリート運行時まで広く使われます。開発チームはシミュレーション環境や走行データの管理ツールとして利用し、運行管理チームは複数台の自動運転車両のリアルタイム監視、遠隔操作、運行スケジュールの管理基盤として利用します。運行を支える選択肢の一つとして、必要な機能と利用条件を確認してください。
- Edge.Auto(ハードウェアの壁を越える) ソフトウェアを動かすための最適なセンサー(カメラやLiDAR)や車載コンピューターの選定に迷った場合に活用します。ハードウェアの参照構成を、開発時の構成検討に利用できます。個別の車両・センサー・ソフトウェア版の組み合わせは検証が必要です。
これらは単独でも導入できますが、本格的な自動運転サービスを構築する場合は、車両側にPilot.AutoとEdge.Autoを搭載し、クラウド側からWeb.Autoで監視するという組み合わせ方も考えられます。必要な構成は、車両と運用要件に応じて選択してください。
AIベースのレベル4技術をどう評価するか
2026年3月のリリースにもあるように、自動運転技術はデータ中心のAI(ディープラーニングやエンドツーエンド学習)の比重が高まっています。業務利用において、この「AIベースのレベル4技術」をどう評価すべきでしょうか。
評価の核心は、「AIがどれだけ賢いか」ではなく、「AIが予期せぬ状況に遭遇したときのフェールセーフ(安全側への制御)がどう設計されているか」です。生成AIが文章作成で幻覚(ハルシネーション)を起こすように、自動運転AIも未知の風景や異常な気象条件下で誤判断を起こすリスクはゼロではありません。レベル4(特定条件下での完全自動運転)を評価する際は、AIの推論精度(物体認識の正確さなど)の評価指標に加え、システムの冗長性(構成要素の故障などに備え、必要な機能を補完する設計)がどの程度確保されているかを確認する必要があります。
また、ソフトウェアの公開と個別の商用提供は分けて確認し、デモ映像だけで利用条件や検証状況を判断しないでください。そのAI技術が、対象の車両・運行に必要な安全評価や手続きを満たす設計になっているか、そして更新前後の挙動と安全性を継続して検証する仕組みが設計されているかが、正しい評価軸となります。
実証実験と商用運行を分けて考える
自動運転関連のニュースでは、「〇〇空港で自動運転の実証実験開始」といった華やかな報道が頻繁になされます。ティアフォーの2025年11月の羽田空港関連発表では、2026年度に制限区域内でのレベル2走行検証、2027年度にレベル4走行検証を目標とする計画が示されました。発表時の計画であり、実施済みや商用運行済みとは区別してください。ここで業務として関わる人が絶対に間違えてはいけないのが、「実証実験」と「商用運行」を明確に分けて考えることです。
実証実験は、あらかじめ設定されたシナリオがうまく機能するか、技術的な課題はどこにあるかを「見つけるため」のテストフェーズです。実証時の安全対策、セーフティドライバーの有無、緊急停止の方法は、案件ごとに確認する必要があります。これを「すでに無人で営業運行できる完成された技術」と混同し、自社の事業計画に「来年から完全無人化によるコスト削減」を組み込むのは極めて危険です。
公道での特定自動運行等を検討する場合は、対象の車両・場所・運行方法に応じた安全評価と必要な許可・手続きを確認してください。導入を検討する際は、「そのシステムが現在どのフェーズ(PoC、限定的な実証、商用レベルの検証、実際の商用稼働)にあるのか」を冷静に判断するステップを必ず踏んでください。
運行設計領域・安全評価・法規制の確認
自動運転レベル4の適用において、最も重要な概念が「ODD(Operational Design Domain:運行設計領域)」です。AIがいかに進化しようとも、現在の自動運転は「どこでも、どんな条件でも走れる」わけではありません。
自社でティアフォーの技術を使って自動運転サービスを導入する場合、以下の確認手順が必要です。
- ODDの定義の確認: そのシステムは「どのエリア(私有地か、特定の公道か)」「どの時間帯」「どの天候(晴れのみか、雨天も可か)」「どの速度域」をシステムの使用条件として設定しているのかを明確にします。自社のビジネスニーズがこのODDに収まるかをチェックします。
- 法規制のクリア: 公式の「DTVキット(開発検証車両)」の案内に「公道では使用できず私有地等の閉鎖空間で使う」と明記されているように、技術的に走れたとしても法的に走ってよいかは別問題です。運行場所・車両・運行形態に応じて、道路交通法や道路運送車両法などの要件と必要な許可を関係機関に確認します。
- 安全評価と機密情報の扱い: 万が一の事故時の責任分界点や、車両から取得されるカメラ画像・位置情報(プライバシーや機密情報を含む)がクラウド(Web.Autoなど)でどのように処理・保護されるのか、コンプライアンス面での社内ルールとの整合性を確認します。
これらを無視して「研究発表されたレベル4AI」をそのまま一般公道での無条件な運用と結びつけるのは、事業リスクを著しく高める行為です。
ティアフォーと他の自動運転基盤を比較する軸
自社で自動運転システムの導入を検討する場合は、他の開発基盤も比較対象になります。その際の判断軸として、単なる「社名の羅列」ではなく、以下の3つの視点で違いを整理することが有効です。
- オープン性 vs ロックイン: ティアフォー(Autoware)はオープンソースを基盤としており、自社でシステムの中身を把握し、独自のカスタマイズを加えやすいという特徴があります。他の基盤についても公開範囲、改変できる部分、契約終了時のデータ・構成の移行条件を確認し、特定のベンダーへの依存度を比較してください。
- フルスタック提供 vs コンポーネント提供: ティアフォーはソフトウェア、クラウド運用(Web.Auto)、ハードウェア設計(Edge.Auto)を一気通貫で提供できる点が強みです。AIモデル、車両側の構成、クラウド運用のうち、提供元が担う範囲と自社で統合する範囲を比較してください。
- 社会実装のアプローチ: 特定の車両専用のシステムを作り上げるアプローチか、ティアフォーのように「様々な車種や用途に適用できる汎用的な基盤」を目指すアプローチか。自社が使いたい車両(バス、カート、専用ポッドなど)にシステムを移植しやすいかどうかを評価の軸に据えてください。
ティアフォー導入前の車両・運用費用の整理
「オープンソースだから無料で自動運転が実現できる」という誤解は、導入時の予算不足につながり得ます。業務責任者は、導入前に以下のような費用構造を正確に整理し、予算化しておく必要があります。
- 車両・ハードウェア費用: ベースとなる車両の調達費に加え、自動運転化するためのバイワイヤ化(電子制御化)改造費、LiDARや高精度カメラ、Edge.Autoのような車載コンピューター等の高額なハードウェア費用がかかります。
- システム統合と安全評価費用: 無償のソフトウェアを車両に組み込み、チューニングし、自社のODDにおいて安全に動作することを証明するためのエンジニアリング費用やコンサルティング費用(ティアフォーのプロフェッショナルサービスなど)が必要です。
- クラウド運用・通信費用: フリート管理ツールの利用料金や、車両とクラウドを接続するための通信費を見積もります。課金単位や必要な通信量は製品・構成・契約条件で確認してください。
- 遠隔監視の人件費: 想定する監視・支援方法に応じて、拠点設備や必要な要員の費用を見積もります。特定自動運行に関する体制や手続きも、対象の運行計画に即して確認してください。
OSSが無償であっても、車両統合と安全運行のための継続的な費用が不要になるわけではないことを理解し、トータルのTCO(総所有コスト)を算出した上で、それを上回る事業価値(人手不足の解消、新サービスの創出)があるかを判断してください。
まとめ:ティアフォーと自動運転AIを活用するための要点整理

本記事では、オープンソースの自動運転技術を主導する「ティアフォー」の企業像と、その技術を業務に導入・評価するための判断体系を徹底的に整理してきました。単なる流行のAIツールとは異なり、自動運転技術は社会のインフラを根本から変革する力を持つ一方で、安全性や法規制、運用コストといった極めて現実的なハードルを越える必要があります。
最後に、これまでの議論から導き出される、ティアフォーと自動運転AI技術を活用するための要点をまとめます。
- 企業の概要:ティアフォーは、オープンソースソフトウェア「Autoware」を軸に、自動運転の標準化とレベル4社会実装を目指す東証グロース市場上場のディープテック企業である。
- 主力プロダクトの役割:開発・組み込み用の「Pilot.Auto」、クラウド・運用監視用の「Web.Auto」、ハードウェア統合用の「Edge.Auto」という3つの柱を組み合わせて事業を構築する。
- オープンソースの真の価値:技術の囲い込みを防ぎカスタマイズ性を高めるが、「無償=コストゼロ」ではなく、商用化には高度な統合技術が必要である。
- 収益・事業モデル:Autowareを基盤とした商用製品・実装支援などを提供している。各製品の課金単位・契約条件と売上構成は別途確認する。
- AI技術の評価:データ中心のAIモデルの賢さだけでなく、予期せぬ事態に対応するシステムの冗長性と安全評価の仕組み(フェールセーフ)が導入の鍵となる。
- 実証と商用の明確な区別:羽田空港関連の検証計画は、実施・商用運行の実績とは分けて確認する。研究発表を無条件の公道運用と結びつけない。
- ODD(運行設計領域)の絶対性:AIがどこでも走れるわけではなく、道路・天候・速度域などの使用条件を定め、条件から外れる場合の制御と必要な運行要件を確認する。
- 閉鎖空間での検証からのスタート:DTVキットは公道では使えず、私有地等の閉鎖空間で使う。導入段階と製品ごとに利用条件を確認する。
- 競合との比較軸:公開範囲や契約条件、車両ごとの移植・統合の作業範囲をそろえて比較し、オープンソースであることだけでベンダー依存がなくなるとは判断しない。
- 隠れた運用費用の認識:ハードウェア改造、安全評価のコンサルティング、クラウド利用料、遠隔監視の人件費など、全体的なTCOを事前に精査することが不可欠である。
自動運転AIは、単なる「便利なソフトウェア」ではなく、ハードウェアとクラウド、そして社会制度と密接に絡み合う巨大なシステムです。ティアフォーの技術を自社のビジネスに導入しようと考える方は、まずは同社の公式情報を確認し、自社の事業が求めるODD(運行設計領域)と法規制を照らし合わせることから始めてください。
次に確認すべき情報 導入の第一歩として、ティアフォーが提供する開発検証キット(DTVキット)の利用条件や、Web.Autoを通じた遠隔監視・フリート管理の仕様を公式サイトで確認することをお勧めします。また、最新のパートナーシップ事例や商用向けライセンスの料金体系については、必要に応じて直接問い合わせを行い、最新の一次情報に基づく事業計画を策定してください。
参考情報・出典
- ティアフォー 公式サイト「About Us」(https://tier4.co.jp/about-us)
- ティアフォー 公式サイト「Products」(https://tier4.co.jp/products)
- NEDO スタートアップ支援 企業紹介 ティアフォー(https://www.nedo.go.jp/activities/startups/company11.html)
- 上場発表:https://tier4.co.jp/updates/press-release/20260722-tokyo-stock-exchange-growth-market-listing
- DTVキット:https://tier4.co.jp/services/dtv-kit
- AIスタック公開:https://tier4.co.jp/updates/press-release/20260316
- 羽田空港関連の計画:https://tier4.co.jp/updates/press-release/20251127
- Autowareの利用規模に関する案内:https://autoware.org/1st-autoware-workshop-tutorial-at-itsc-2026/
- GMのCruise開発方針発表:https://news.gm.com/home.detail.html/Pages/news/us/en/2024/dec/1210-gm.html
- 警察庁の自動運転案内:https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/selfdriving/
